いつもと違う修也の姿に朱莉は戸惑った。
「各務さん……?」
しかし、次の瞬間修也はいつもの人懐こい笑顔に戻った。
「世の中には真実を告げることが全て正解だとは思いません。知らない方が良い場合もあると僕は思うんですよ。明日香さんの話は僕からも翔に伝えます。やっぱり翔もいくらアメリカにいるからと言っても明日香さんと電話で話し合うべきですからね」
そこまで話した時。
「う~ん……」
ソファで眠っていた蓮が目をこすりながらむくりと起き上がった。
「蓮ちゃん、目が覚めたのね」
傍に行くと、突然蓮が朱莉に抱きついてきた。
「どうしたの? 蓮ちゃん」
朱莉は蓮を胸に抱きしめ、頭を撫でながら尋ねた。
「うん……。何か……お母さんがどこか遠くへ行っちゃう夢を見たから……。曾お爺ちゃんが言ったんだ。曾お爺ちゃんと2人で一緒に暮らさないかって」
「え?」
朱莉はその言葉に衝撃を受けた。それは修也も同様だった。
「でも、僕言ったんだ。お母さんと一緒がいいって。そしたら分かったよって曾お爺ちゃん笑ってた。そしたら夢の中でお母さんがいなくなっていて…僕、お母さんをたくさん探して……それで目が覚めたの」
「蓮ちゃん……!」
朱莉は蓮を強く抱きしめると肩を震わせた。朱莉と蓮がしっかり抱き合っている姿を見つめる修也は嫌な予感を覚えた。
(もしかして会長は蓮君が朱莉さんの本当の子供じゃないことを知ってるのだろうか……? それで自分が引き取ろうと……?)
修也はグッと手を握り締め……ある覚悟を決めるのだった――
****
真夜中深夜1時――
修也は自室で翔に電話をかけていた。6コール目でようやく電話がつながった。
『どうしたんだ? 修也。この間電話で話したばかりだろう?』
「うん、ごめん。ちょっと……どうしても確認しておきたいことがあってね」
『まあ……俺は構わないが……だけど、今そっちは何時なんだ?』
「真夜中の1時だよ」
『お前、わざわざこっちの時間帯に合わせて電話してきたのか?』
「うん、この時間なら迷惑にならないかなと思ってね。土曜だし」
『まあ……それはそうだが……。それで一体何の要件なんだよ。仕事の話か?』
「それだったら土曜日に電話なんか掛けないよ」
修也は苦笑した。
『それじゃあ何だよ』
「朱莉さんと翔が書類上だけの結婚て話は会長に伝えてあるの?」
『まさか! そんなこと言うはずない